教員Voice 宮田佳緒里先生インタビュー

 

授業づくりの「視点」を豊かに

 

――学生生活を振り返って、改めて思い出される印象的な出来事はありますか?

私の通っていた大学の裏に自然植物園がありました。そこは、学生証を示せば無料で入ることができるので、 よくそこに行って植物を見ていました。たまたま植物園に行った時にアサギマダラという高い山に生息する蝶を見ました。 初めて見たという感動が大きくて、そこから夢中になり、しょっちゅう通っていました。観察するのが好きで写真を撮って、後から図鑑で名前を確認するのがとても楽しかったです。教育心理学の研究室なのですか、理科をテーマにした研究をしていました。理科学習で「つまずき」がなぜ起こるのかということを心理学の立場から研究している人がたくさんいたので、私も理科っぽいことをしていました。研究室で先生も含めて蔵王に泊まりに行き、ハイキングしながら植物や虫の写真を撮ったことも思い出に残っています。心理学とはちょっと遠い感じがしますけどね。

   

――現在はどのような生活をされていますか?例えば、休日はどのように過ごされていますか?

私は平日に仕事をしますが、 休日は一切仕事や研究をしません。休日は植物と触れ合う時間が多いです。 野菜をプランターで植えたり、植物の手入れをしたりするのが結構楽しいです。ミニバラを育てているのですが、その枯れ枝を拾うのがすごく楽しいんですよね。今年は、オクラ、きゅうり、ミニトマト、つるなしインゲンを育てました。苗を植えて収穫するのも楽しいのですが、育てているとその植物の生き方がわかるということに面白さを感じています。 例えば、水切れを起こした時にすぐに枯れるのではなく、葉っぱを落として蒸散を防いで乾燥に耐える。そういうところに面白さを感じます。また、パンジーをもらって植えたのですが、花が咲いている時にはほとんど虫がつかなかったのに、 枯れ始めた頃にパンジーだけを食するツマグロヒョウモンという蝶の幼虫が付き始め、綺麗に食べてくれました。このような発見がとても楽しいです。また、地球科学や図鑑など、研究とは関係ない本も読みます。学研の図鑑LIVEの昆虫図鑑の最新版がすごく楽しくて、時間をかけて読んでいます。

 

――先生の研究分野と具体的な研究内容を教えてください。

その人がもともと持っている知識を科学的に妥当とされる知識に変化させるためには、どうすればよいのかを研究しています。例えば、大学院に入ってきた方たちもそれなりの知識と経験を持って入ってくるのですが、二年間が終わった後に知識とか認識が変わっているはずです。その変化をどのように起こしていくのか、それに私たちはどう関わることができるのかについて研究しています。なので、院生は研究対象者なんです(笑)。例えば、私が院生の頃に書いた物理学の素朴概念に関する論文(後述の論文)で説明すると、二人で荷物を支えるときなどに、右の図のように二人の支える角度を大きくすると、一人で支えるときよりも大きな力で支えなければなりません。こうなる理由を、右の図の中の下2つの図のような力の分解を表す作図をして説明しても、現実には、図のようにならないんじゃないかと全然信用してもらえないといった現象があるんです。自分の生活経験と新しい知識につながりを持つことが難しくなった時につまずきが起こります。本当は図だけでものを考えられるというのが、ある意味で理科の目標であって、理論的に考えれば理解できるという発想なのですが、受け入れられない現実がある。 このようなつまずきを解決する方法を考えたり、 その人がもともと持っている知識を科学的な知識に変化させたりするためにどのようなアプローチができるのかを研究しています。

 

――先生の書かれた論文で代表的なものを教えてください。

モデル図と実測を組合せた教示が力学のルール学習に及ぼす効果」です。代表的とは言えるかどうか分かりませんが、思い出深い論文です。これは博士論文の最後に載せた論文です。私は、博士論文を書くのに四年ぐらいかかったんですよ。博士論文というのは、関係する研究をいくつかまとめて、最終的に自分の仮説通りになった研究を載せてまとめるというのが一番美しい流れなのですが、その決定打となる研究がどうしてもできなかったんです。 三年ぐらいずっとモヤモヤしていて そのモヤモヤしたあげくになんとかできたのがこの論文です。やっと予想通りの結果になり、 自分でも理論的にもある程度ストーリーができたので、博士論文も書けて、やっと一つの研究が終わったという喜びを感じていました。そのおかげで、無事に就職することもできました。

 

――先生のご専門や研究は学校や教育現場でどのように役立つものですか?

子どもたちがもともと持っている知識を授業でどう生かし、科学的に妥当とされる知識に変化させるのかについて研究しているので、現場での授業づくりに役立ったり、還元されたりすると思います。授業づくりの場面では、「ねらい」をはっきりさせることは意識的に行われますが、子どもの初期状態というのは考えられないことが多くあります。単純に正しいとされることを伝えればいいわけでなく、結局はその伝えたことを踏まえて子どもが自分の知識をどう変化させるかが大切なので、そういうことを念頭に置いて授業を作る「視点」が増えると思います。

 

――先生の研究分野や研究領域に関わって、おすすめの一冊を教えてください。

一冊目は、東北大学出版会の「学習者の誤った知識をどう修正するか」です。概念の変化に一番直結している本だと思います。学術書なので一般の方には少し難しいかもしれませんが、学習者の知識をどうするかについて考える原点となった一冊です。ここに出ているのは、皆さん東北大学の先輩です。誤概念や素朴概念に関する教育心理学の研究は理科分野で発展してきました。なので、内容も理科的なものがほとんどです。もう一冊は、第一法規出版の「教師が学び合う学校づくりー若手教師の育て方実践事例集―」です。教師の学びについて書かれていて、グループメンタリングについての理論や、メンタリングの実践報告がたくさん載っています。こちらはとても読みやすい本です。

  

――最後に、先生が考える本コースの魅力を教えてください。

学校の中で起きる問題を丸ごと見ているのが教育方法・生徒指導マネジメントコースだと思います。授業づくりもあるし、生徒指導もあるし、学級経営もあります。研究内容は何か一つに絞ることになりますが、コースとしては色々な問題に取り組んでいる仲間がいるというのが、最大の魅力だと思います。色々な問題意識を持って取り組んでいる人がお互いに情報共有をすることで、結局自分が抱えていた問題の解決につながることもあります。やはり、一緒に学ぶ仲間の存在は大切ですね。また、素朴な疑問に研究としての「価値」が与えられるので、自由度高く自分の研究ができることも魅力の一つですね。

 

インタビュー実施:2023年9月12日

インタビュー・写真:中川清博