教員Voice 森本哲介先生インタビュー

 

子どもの強みを見つけ、強みを生かす教育を

 

――学生生活を振り返って、改めて思い出される印象的な出来事はありますか?

僕はもともと田舎育ちから東京に出たので、大学生の頃は友だちと遊んでばかりで、そんなにまじめに勉強をしていたわけではなかったですね。大学院生になってからはカウンセラーになろうと思っていたので、講義に出たり、学会や研修会に行ったりしていました。ただ博士課程で思うように研究が進まず、一本目の論文を通すまでにかなり時間がかかりました。ただその分、臨床は積極的にやっていて、教育相談センター、スクールカウンセラー、就労支援など色々やらせてもらっていました。

 

――現在はどのような生活をされていますか?例えば、休日はどのように過ごされていますか?

子どもが三人いるので、休日はその子どもたちのお世話ですね。公園に連れて行ったり、買い物に行ったり、習い事の送迎。てんてこ舞いです。カウンセラーなんですけど、子どもの相手の時はカウンセラーの顔とは全くの別物ですね。あと休日には料理をするのが好きかもしれません。昔はスペアリブなんかもよく作っていたのですが、いつの間にか妻の方が上手に作れるようになったので、今は揚げ物とか、油を使う料理を作るのが私の役目になっていています。

 

――先生の研究分野と具体的な研究内容を教えてください。

一言でいえば、「ポジティブ心理学」です。ただポジティブ心理学という学問分野があるわけではなく、ポジティブ心理学は一つの視点や立場のようなものです。ポジティブ心理学の立場から臨床心理学に取り組む人もいれば、教育心理学や社会心理学に取り組む人もいます。心理学は、元々はストレスや抑うつといったネガティブな側面を取り扱うことが多かったのですが、それだけではなくて、人の健康的な側面や幸せ、やる気などのポジティブな部分、いわゆる強みに焦点を当てることで、幸福感を高めたり、エンゲージメントを高めたりしようとするのが、ポジティブ心理学です。

 

――先生の書かれた論文で代表的なものを教えてください。

代表的、となると難しいですね。やっぱり最初に書いた論文は印象に残っています。博士論文を書くきっかけになった教育心理学の論文ですね。これは高校生を対象にして、自己の強みに関する意識を高めるためのプログラムを開発して、その効果を検証するという論文でした。これは今でもたまに問い合わせを受ける論文です。あとは、ゼミ生だった方と一緒に書いた論文はどれも思い入れがありますね。

 

――先生のご専門や研究は学校や教育現場でどのように役立つものですか?

ポジティブ心理学の研究は、学校の中で様々に実践されています。例えば、道徳教育やキャリア教育の一環として子どもが強みを自覚するための介入するプログラムが実施されています。ちなみに、うちの連合大学院の博士課程の方でも、ポジティブ心理学的な実践をされている方がおられますね。また子どもの強みを学級経営に生かしていこうということもなされていて、そうすることで学校生活への満足度を高めることなどもされています。強みを生かしたリーダーシップ、得意を生かせる学級経営、子どもたち同士で良いところを見つけやすくする、先生から子どもの良いところをフィードバックするといったことが取り組まれています。大きく言えば、ポジティブなところを意識して生きていくことで、幸せになれる人が増えるんじゃないかと思っています。研究としてはシンプルな方がいいので、ポジティブに焦点化して取り組んでいますけど、実際は、ポジティブとネガティブの両面があって初めて人間っぽいと思うので、そういう人間らしさというのも大切にしていきたいという思いはあります。

 

――先生の研究分野や研究領域に関わって、おすすめの一冊を教えてください。

難しいですね。学校の先生になりたい人向けにおすすめの一冊を挙げるなら、『ストレングス・スイッチ 子どもの「強み」を伸ばすポジティブ心理学』(リー・ウォーターズ著、江口泰子訳、2018、光文社)ですかね。タイトルの通り、子どもの強みをどう伸ばすのかについてまとめられた本です。あと、企業人の方には、『ストレングス・リーダーシップ<新装版>さあ、リーダーの才能に目覚めよう』(ギャラップ著、田口俊樹・加藤万里子訳、2022口泰子訳、2018、日本経済新聞出版)という本もおすすめです。

 

――最後に、先生が考える本コースの魅力を教えてください。

評価に縛られない学びができることではないでしょうか。多様性の高いコースで、教員、院生ともに関心が多様なので、その中で化学反応的なことが起こるかもしれません。教員や院生の間で積極的に学ばれて、コラボレーションや化学反応が起きれば、それは非常に深い学びになると思います。いろんなことをつかみ取れる環境があると思います。

 

インタビュー実施:2023年8月4日

インタビュアー:中川清博、松田充