子どもの攻撃性を高める映像

 「攻撃性」は、「攻撃行動」と異なります。攻撃行動は、誰かを傷つけようとする意図でなされる行動そのものです。一方、攻撃性は、攻撃行動を引き起こす心の中の状態です。「攻撃性が高い」とは、手段を選ばず、人を傷つける行動に出やすい内的状態をいいます。攻撃性もまた、観察学習によって高まるのでしょうか?

 その答は、リーバートンさんとバロンさんの実験にあります。実験に参加した小学生は、ふたつの条件のどちらかに割り当てられます。非攻撃的映像条件の子どもは、中距離陸上選手たちが一団となってトラックを走っている映像を10分間見ます。攻撃的映像条件の子どもは、TVドラマ「アンタッチャブル」の銃撃シーンを10分間見ます。対立抗争しているマフィアたちが拳銃や機関銃で互いに撃ち合い、血みどろになって倒れるシーンです。その後、子どもたちは別室に移動し、ある装置の前に座ります。

 卓上の装置には、3つのライトが三角形の頂点に位置し、うち2つの下にスイッチが着いています。その装置を前に、子どもは次のような説明を受けます。「この装置は隣の部屋に取り付けられたこんなハンドル(ここで実験者は自動車のステアリングを見せる)につながっているんだ。隣の部屋には、君と同い年の子がいて、その子の仕事は、このハンドルを回すことなんだ。その子がハンドルを回すと、一番上の白いライトが光るよ。そしたら、君は、右か左か、どちらかのスイッチを押すんだ。左の赤いスイッチ“痛くする”って書いてある方。このスイッチを押すと上の赤いライトがついて、隣の子のハンドルがとても熱くなる。その子は回せなくなるし、やけどをするかもしれない。右の緑のスイッチは“手伝う”ってあるだろ。こちらを押すと、隣の子のハンドルが軽く回しやすくなって、その子はとても助かる」(註)

 子どもの理解を確認し、実験が始まりました。そして実験の結果、アンタッチャブルを視聴した子どもは、陸上を見た子どもより、押した回数でも、押し続けたトータルの時間でも、隣の子を“痛くした”のです。

 視聴した映像は銃撃戦でしたが、子どもが取った攻撃行動は「スイッチを押す」でした。映像と同じ攻撃行動を再現したのではなく、その時手段として与えられた攻撃行動を取ったのです。さらに実験では、攻撃以外の対人行動すなわち“手伝う”という援助行動の選択もできました。それにも関わらず、攻撃を選んだ子どもたち。自分と同い年の子どもを“痛くしてやろう”という攻撃性が、攻撃的映像の視聴で高まっていたといえるでしょう。

 現在、映画などパブリックに公開される映像には内容による年齢制限が課されています。しかし子どものアクセスできる映像・動画のすべてがきちんと規制されているわけではありません。フィクションの世界は日常を離脱させてくれる楽しみがあります。しかし、世の中の理を知ってフィクションに遊べる大人と、知る前に浸る子どもとでは、そのもたらす影響が異なるのです。

(註)

この実験はディセプション(deception)を用いています。ディセプションとは、ある状況を実験室内に再現するため、嘘の教示を用いることです。この実験では、隣の子は実際にはいません。ディセプションを用いた場合は、実験終了後に本当のことを説明して、実験参加者に謝罪し理解を求めます。

文献

Liebert, R. M., & Baron, R. A. (1972). Some immediate effects of televised violence on children’s behavior. Developmental Psychology, 6(3), 469–475.