「やってもダメだ」を学習する
中学生になると、試験や成績ががぜん気になり出します。これは本人も親御さんも先生もです。小学生時代とは違って、自分の位置が相対化され、先には受験もちらちらします。早い時点で苦手科目を克服したいと関係者全員が思うのですが、なかなかそうはいきません。そしてついに「ワタシ、数学やってもムダだから」「オレ、英語、諦めるわ」・・・心のどこかでは、やらねばならないと思いつつ、どうしてもやる気が起きない・取り組めない。そんな状態になりがちです。
彼らの状態を理解する上で参考になる実験があります。心理学者のM.セリグマンさんは、実験ケージに金属製のグリッド(BBQで使う網の太いのを想像ください)を設置し、イヌを乗せました。ケージには中央に仕切りがあって、イヌがいる方のグリッドには、ビリッとなる電流を断続的に流します。もちろんビリッとくるのは嫌ですから、イヌはすぐに仕切りを飛び越えて向こう側に逃げます。そこで可哀相ですが、グリッドから足裏が離れないよう固定してしまいます。電流が来るたび、イヌは何とか逃れようと試みますが、いくらジタバタしても逃れることができません。そうするうちにイヌは行動をやめてしまいます。じっと動かないまま、ビリッを受け続けるようになります。そしてその後、足裏の固定を外して逃げられる状態にしても、逃げる行動を取らなかったのです。あたかも「やってもダメだ」と言わんばかりに(註)。
このように、嫌な刺激にさらされ続け、自発行動を起こしても脱出できないと、「行動を起こしてもムダだ」と学習してしまいます。何をやっても今の状態から逃れられないと思ったら、何をする気もなくなってしまう。これを「学習性無気力」の状態といいます。
がんばってみた。けど全然ダメだった。勉強しても何も変わらない。苦手科目、嫌いな科目でこのような経験を繰り返してしまうと、学習性無気力に陥ってしまいます。
さらに、このような「何をやっても良くならない・変わらない」気持ちは、教科の勉強だけでなく、人間関係でも生じます。クラス、部活、仲間集団、上手くやっていきたいという気持ちは強いのに、どうやっても関係は改善しない。このような状態が長く続くと、他人と積極的に関わり合おうとする気持ちが萎えてしまいます。場合によっては、学校に行けない、人と接触できないところまで発展することもあります。
では、どうすれば学習性無気力の状態を回避することができるのでしょうか? 次回、お話ししようと思います。
文献
Seligman, M., & Maier, S. (1967). Failure to escape traumatic shock. Journal of Experimental Psychology, 88, 242-247
(註)
54年前に行われた実験です。動物の権利と愛護の観点から現在では研究の倫理性が問われる実験だと思います。