おまじないも時に必要

このエッセイを書いている2021年7月、2020東京オリンピックが開催されています(文にするとちょっと奇妙ですけど)。晴舞台に立つアスリートさんたちを見るにつけ、わたしには想像もつかない研鑽を積んできたかっこよさに、思わず両手をグーに握ってしまいます。

昨今、多くの一流アスリートさんがプレパフォーマンス・ルーティンなるものを持っているそうです。スポーツで言うところのルーティンとは、ここ一番勝負をかけるときに、自分にとって最適な心理状態を得るために、一連の決まった動作を行うことです。それは過去の成功体験に基づき、心のコントロールができたときだけにやっていた行動を洗い出して、個々人が作り上げていくものだそうです。

アスリートさんほど洗練はされていなくても、いざと言うとき、これをやれば落ち着く、これをしないと気持ちが悪い、といった習慣をお持ちの方は多いです。試験の時は必ずこのエンピツ、試合の前は絶対カツ丼、なんて人もいらっしゃいますよね。他人からみると「あれ、何の意味があるんだ?」と思える行動でも、本人の内的状態に大きく関わっているものなのです。

行動心理学者のスキナーさんのハトたちもそうでした。この実験では、ハトが何をしていようが、15秒ごとにフードが一粒給餌皿に出ます。それだけの手続きです。ですがこれを繰り返した結果、実験に参加した多くのハトがそれぞれ独自の行動を身につけたのです。あるハトは「フードよ。いでよ!」とばかりに給餌皿に向かって両羽根を大きく広げ、別のハトはぐるぐる回って給餌皿にお辞儀する、といった風に。

ハトたちは実験に向けて空腹状態にされていたため、フードはここ一番の大きな報酬でした。なので、フードが出現した最高の瞬間に「たまたま取っていた行動」が報酬と結びついたのです。スキナーさんは、ハトたちの行動を「迷信行動」と呼びました。本来の因果関係がありませんから「フードよ。いでよ!」とやっても無意味だからです。

しかし、わたしは無意味な行動だとは思いません。そうすることでハトたちはフードを食べた時のおいしさをイメージし、よい内的状態を再現していたと思うからです(行動理論ではこういう解釈は御法度ですが)。

さてここで、教室を見渡してみてください。ちょっと不思議な行動を繰り返している子はいませんか? どうしてそんな些細なことにこだわるのだろうと疑問に思うことはありませんか? そんな子どもに気づいたら、お願いがあります。そんなことしても無意味だと指摘しないでください。だまって気づかないふりをしてあげてください。その不可思議な行動こそが、その子の心を保つ大事なおまじないなのですから。

文献

教えて大体大先生!「最高の状態をつくりだそう!」https://www.ouhs.jp/nyushi/oshiete/story04/
Skinner, B. F. (1948). ‘Superstition’ in the pigeon. Journal of Experimental Psychology, 38(2), 168–172.