「ほめる・しかる」のメカニズム

上手にほめる、上手にしかる。教師として身につけるべきスキルとして、よく言われる言葉です。ほめることで良い面を伸ばし、しかることで悪い点をなくすことができる。このことを経験値として持っている教師は多いのですが、なぜ、ほめる・しかるが有効なのか、そのメカニズムを知る人は少ないでしょう。今回は、そのお話をします。メカニズムを知れば、本当に有効なほめ方・しかり方が見えてきます。

「ほめる・しかる」は、学習心理学の行動理論の実践に他なりません。行動理論は、個体がいかにして環境に適応的な行動を身につけていくか、そのメカニズムを示した理論です。どのような行動を取れば生き延びられ、どのような行動が身を危険にさらすのか。それを学ぶことが適応です。そして、その手がかりが「報酬」と「罰」です。

ある行動をした結果「報酬」が得られた、例えば、ある場所に行ったら食べ物が得られた。その場合、報酬が得られた行動は繰り返されるようになります。ある行動をした結果「罰」がきた、例えば、ある場所に行ったら野獣に咬まれた。罰を伴った行動は抑えられ、繰り返されることはありません。報酬を伴った行動は出現頻度が増え、罰を伴った行動は出現頻度が減る。これが行動を作りあげるメカニズムです。

行動理論は当初、動物を使った実験で明らかにされましたが、そのメカニズムは人間を含む幅広い生き物で検証されました。

教師からほめられることは、子どもにとっての報酬です。伸ばしたい行動、出現頻度を増やしたい行動を見たら、即座にほめましょう。時間をおくと、特定の行動と報酬の結びつきが弱くなってしまうからです。しかる時も同様です。抑えたい行動、止めさせたい行動を目撃したら、ためらわず、間を置かず、しかりましょう。

子どもの行動を変える手段として「ほめる・しかる」を使う時、重要なことがもうひとつあります。それは、教師であるあなたが、ターゲットとなる子どもの行動を他の行動から明確に区別していることです。特定の行動と報酬あるいは罰を結びつけるためには、この区別が不可決なのです。