教員Voice 竹西亜古先生インタビュー
守備範囲外の人が来たら面白い自由度の高いコース
――学生生活を振り返って、改めて思い出される印象的な出来事はありますか?
私がいた大学は非常に特殊な教育をしている大学で、在学していた当時、ゼミがなかったのです。先生は教えてくれない。教えてくれないから、みんな自分たちで勉強する。教授というのは教えないものだったんです、私の時代は。楽で良かったよね。
学習のためには、研究会がありました。私は社会心理学研究会、通称「社心研」に所属しました。博士課程の先輩から学部の方までいて、それぞれの研究を進めるために、輪読、発表、議論を活発に行いました。授業としては、半年に1回の演習で発表し、教授陣から指導を受けるのですが、大抵は批判を喰らいます。その際にも「社心研」で(呑み付きの)反省会をしていました。当時の院生は「呑む」ことと「議論」することが同時進行する習わしで、そういう場で研究のヒントも裏話もゲットしてました。11月祭の前夜祭に「教官酒場」っていうのがありました。先生方がポケットマネーを出し合って、学生にタダ酒を振る舞う出店なんですが、その酒場で二年続けてマダムをしたことが“誇り”ですね。やっぱり研究会での先輩後輩の繋がりが大事だったなと思います。今から思えば、少年スポーツ漫画とかに近いなって思います。先輩が後輩を思っていろいろ教えてくれて。その中にあるライバル関係で自分の技能を磨いていく。漫画の中に先生はあまり出てこないように、先生から教えてもらうよりも、みんなでいっしょになってやるという大変楽しい生活でした。
――現在はどのような生活をされていますか?例えば、休日はどのように過ごされていますか?
研究も趣味なんで、週末もあまり変わらない生活をしています。生活の中では楽しいこと以外しません。研究も、アニメ・漫画も、同じぐらい楽しい。ゼミも楽しい。だからゼミもほぼ趣味に近い。家では「いきもの係」です。ハムスター、猫、あとダンナの「いきもの係」です。教科でいうと、理科と図工と体育が好きです。理科では、日本の野生蘭を育てています。蘭は植物の進化的に面白く、環境への適応のすごさを感じさせます。なにせ、自宅の夏場40℃ちかいベランダに適応してますから。鉱物も好きで、標本たくさん持っています。油絵も描きますけど、ここ2,3年、さすがに時間が足りず描けてないですね。最後に、筋トレです。バーベルスクワット40㎏目指して、今37.5㎏まで来ています。40㎏を美しくあげたいね。
――先生の研究分野と具体的な研究内容を教えてください。
私の中で、教育の研究は3割ぐらい、後の7割は教育外です。現在7割を占めているのは、リスク情報の記憶やリスクコミュニケーション研究です。研究助成をもらっていて、去年アニメを作りました。福島県の風評被害に関して、その理解を促進するために、誰もが理解しやすいアニメを作りました。その中で、アニメバージョンと、普通の教科書バージョンを比較して見せて、それでどれだけ記憶が残っているかを測定することも行いました。心理学の再認法という方法を使うと、アニメで見た方が記憶に残りやすいことがわかりました。ちなみに、そのアニメのキャラクターデザインをしたのは、ワタクシです。教育の研究では、コミュニティスクールの研究を、静岡県の沼津市でやっています。また、「フェア」な話し合い活動、民主的指導法も沼津と明石でやっています。「フェア」な学級づくりは今ちょっと布教中なんです。
――先生の書かれた論文で代表的なものを教えてください。
色々やってるので代表的はないですね。みんな自分で好きなものを読んでください(竹西先生リサーチマップ)。わたしは社会心理学者で、人が「フェア」「アンフェア」をどのように感じて、それを感じた結果、どういう行動に出て、それが社会をどう作り上げていくのかという関心を基盤に研究しています。
――先生のご専門や研究は学校や教育現場でどのように役立つものですか?
人と人との相互作用や集団に関わる部分ですね。フェアの研究を実践化するもので、現在、話合い活動を良くする研究に取り組んでいます。話合い活動というのは、単に話し合わせればいいわけではなく、時として非常に危ういことがあります。社会心理学では「集団浅慮」の研究があります。よくない同調が起きたり、力関係によって歪んだり。話し合えば、いい結論に達するっていうのは一つの幻想なんですよ。その話合いをより良くして行くためにはどうすればいいかについて、私が専門にしている、手続き的公正という考え方を取り込んだ話し合いを行っています。
――先生の研究分野や研究領域に関わって、おすすめの一冊を教えてください。
ないですね。現在、私の研究アイデアは、私の中から煌々と湧いてでてくるので。心理学や社会心理学の基礎的な知識があって、特にリスクとかフェアに関しては、今までにたくさん勉強してきたので、それを実社会や教育場面に応用することをやっています。その応用に関してはどんどんアイデアが出ます。ゲームを通して、リスクコミュニケーションを学ぶなんてものもあります。カードゲーム通してリスクコミュニケーションする側と、いろんなことを訴えかける側の役割を交代しながら、情報の有用性や感情を点数化していくことで、勝ち負けを決めるというゲームです。研究を外すとオススメの本は沢山あります。最推しは、全てのファンタジーの基本となるJ.R.R.トールキン先生の「指輪物語」ですね。退職後はファンタジー作家になるか、漫画の原作者を目指して投稿して行きます。オタクで行きます、はい(笑)。
――最後に、先生が考える本コースの魅力を教えてください。
自由度が高いところでしょうか。何を研究しても許されるみたいなところがあるかな。分野も広いし、それぞれの人の関心も自由です。この自由度を受け止めてくれるスタッフが多いと思います。うちのゼミも何でも来いという状態です。守備範囲から離れた人が来れば来るほど面白い。それがすごく新たな発見になります。知らないことを院生さんに聞くと、いっぱい教えてくれるし、楽しいです。自由度がこのコースのいいところだと思います。
インタビュー実施:2023年8月2日
インタビュー・写真:北村宏規、松田充