「決定の誤り」を回避する

高価な買い物をしたときのことを思い出してください。自分にとって大事なモノ・趣味的なモノ・ここ一番!と、気合いを入れた買い物です。そういうときは大抵、複数の候補を吟味しますよね。あれやら・これやら・うーーん、と唸って「決めた!」・・・で、そのあと、ご機嫌になりますよね。あー、いいもの買った~。コレにして良かったわ~。♡♡♡

実は、ここにも認知的不協和理論が顔を出します。

え、ご機嫌だし、不協和なんてないじゃない? 

ところがどっこい。「決定」には、必ず不協和が付いてくるのです(これを「決定後不協和」といいます)。なぜなら「決定が誤りである」可能性がゼロではないからです。あなたが選ばなかった候補の方が実はいいモノだった。あなたの決定や選択が間違っていたという可能性です。

1960年代の米国、モータリゼーションが最高潮を迎え、カッコイイ車を手に入れることは万人の憧れでした。その時代の購買行動の研究で、次のことが明らかになっています。①購入前の調査では、複数の候補車に対する魅力度は伯仲していた。しかし、購入後は「自分が購入した車」に対する魅力度がぐんっとアップし、他の車の魅力度が劇オチした。②購入前には、複数の候補車のパンフレット集めていた。購入後、自分の購入した車のパンフレットだけ「残して」、他の車のは捨てた。③購入前は複数の車のTVコマーシャルや宣伝をまんべんなく見ていた。購入後は、選ばなかった車の情報を見聞きしないようになった。

「重大な決定をした」と「その決定は誤りであった」との間の不協和は、とてつもない不快をもたらします。買い物程度ならまだしも、その決定が人生に関わるものだったら・・・たとえば、進学とか、就職とか、結婚とか。

人は、自分の決定が間違いでないことを確認する行動を好んで取るのです。自分の決定の“正しさ”を補強する情報を取り入れ、弱める情報を排除するのです。その結果、自分の決定がどんどん好ましく思え、たとえ(客観的にみて)誤りであっても、それを認めない・認められない状態になります。

認知的不協和理論のエッセンスは、自己の行動を守る(=正当化する)ための認知を活性化させることにあります。この心の働きは、特殊な人のものではありません。人は誰しもが、自分の行動を自分で否定することには向いていません。それはメンタルヘルス上、よろしくないからです。そう、認知的不協和を低減することは、メンタルヘルスを保ち、心の安寧を得るために避けて通れない道なのです。