暗黙知に支えられた職業の人材育成

暗黙知に支えられた職業の人材育成は容易ではありません。いったん自転車に乗れるようになると人は,自分の自転車の乗り方はこれでいいのかとか,もっとうまい乗り方があるのではないかとか,あまり考えなくなります。教師の場合も基本的に同様かもしれません。経験を積み重ねて首尾よく実践できるようになると(もちろん,これ自体は好ましいことです),自信もついて,自らの授業や学級経営を根本から問い直すことが難しくなるのかもしれません。問い直したなら,もっと望ましい実践ができたかもしれないのに,問い直さなくなることで,その可能性を自ら減じてしまうのです。

教師の仕事が暗黙知に支えられているとしたら,若手教師を育てる先輩教師にはどのような関わりが求められるでしょうか。もちろん,若手教師が「自転車に乗れるようになる」ための支援は必要でしょう。しかしそれと同時に,あるいはそれ以上に大切かもしれないのは,若手が「自転車に乗れるようになってからもなお,自らのありようを問い直そうとする」教師になれるよう関わるということではないでしょうか。