Q4. 学習の担い手は教師ではなく、AIに移行しますか?

Question 4

 「指導の個別化」や「学習の個性化」は、教室では一人一人の子供がブースごとに分かれて学習するようなイメージですか。「完全習得学習」の担い手は教師ではなく、AIに移行するのでしょうか。

Answer 4

 人口知能(artificial intelligence)だけではなく、広くコンピューターの活用が、教師の役割を代替できるのではないかということは、古くから言われています。1960年代にフレデリック・スキナーが、プログラム学習とそれに基づくティーチング・マシンを開発して以降、50年以上にわたってコンピューターが教師を代替する時代の到来は、今か今かと待たれています。しかし、少なくとも2022年においては、まだそのような時代は到来していません。将来はどうでしょうか。教師がAIに移行することは可能なのでしょうか。

 野村総合研究所が紹介している英オックスフォード大学のマイケル A. オズボーン准教授およびカール・ベネディクト・フレイ博士との共同研究によると、教師は「人工知能やロボット等による代替可能性が低い」職業となっています。これは教職が「他者との協調や、他者の理解、説得、ネゴシエーション、サービス志向性」が求められる仕事だからです。確かに、生徒指導場面を想像していると、AIが教師を代替できるとは思いません。それでは、知識を教授する授業場面に限ってはどうでしょうか。

 私は、知識を教えるということも、AIが代替するのは難しいのではないかと考えています。なぜなら、人が学習するには、なぜこの内容を勉強するのかに対する理由や根拠づけが必要だからです。ところで、将棋は、AIが人間の強さをはるかに凌駕しており、AIの活用が最も進んでいる分野の一つです。将棋の中継では、画面にAIが示している今の局面の最善の指し手が表示されます。それを見て、将棋の解説者は、しばしば「AIは最善の指し手を示してくれるが、なぜそれが最善なのかは教えてくれない」と言います。つまりAIは、非常に複雑な計算によって現局面の最善手を導き出すことはできても、複雑すぎるがゆえに、それがなぜ最善であるのかの説明が誰にもできないのです。これを学習に置きかえて考えると、AIが子どもに対して、仮に最善の学習を提案できたとしても、なぜその学習が最善であるのか、もっと言えば、なぜその学習をしなければならないのかという理由は、AIには説明することができません。それこそ、人はコンピューターではないので、理由なく学習に取り組むことはできないのではないかと思います。逆に言えば、AI時代において教師は、なぜ、いま、これを学ぶのかという子どもの素朴な疑問にしっかりと向き合う必要があるのかもしれません。

(松田 充)

野村総合研究所(2015)「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に:601種の職種ごとに、コンピューター技能による代替確率を試算」https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf(2022.6.22)