地域を活用した協働的な学びの創造

個別最適な学びは、協働的な学びによって補完され、より高い次元に統合される必要があります。個別の学びは社会とつながらねば、本当の意味での学び、生きる力に結びつく学びにはなりません。そのために効果的な手法の一つが、地域を活用した協働的な学びの設定です。

地域住民をゲストティーチャーとして招いたり、地域の行事や活動に児童生徒を参加させる。地域連携と称してよく行われていることです。しかしそれでは、真の意味での協働的な学びは深まりません。協働的な学びとは、参加者ひとりひとりが自分の役割を認識し、責任を持ち、目的を共有することで初めて成立します。地域連携の素晴らしい点は、児童生徒だけでなく、教職員や地域住民といった大人達にとっても、協働的な学びの創造になることです。

ではどのようにすれば、このような協働的な学びを創造できるのでしょうか?

そのためにまず大事なことは、学校と地域が「育てたい子ども像」を共に創り出すことです。地域の風土や特徴、そこに生きる人々の願いを踏まえ得た上で、「子どもたちにどう生きていってほしいか」「どのような人間になってほしいか」を共有します。この像は、児童生徒にとっては、そこに生きる自分が「どんな役割を持った存在なのか」を知ることにつながります。

そのために有効な方法が、教職員と地域住民の双方が参加した「熟議」です。高学年の児童生徒の参加も良いでしょう。

熟議は2段階で設定します。第1段階では、地域の資源を知るために「この地域の素晴らしいところ、残念なところ」をテーマに熟議を開きます。この熟議によって、参加者は地域の魅力と問題点を共有できます。第2段階では、地域の魅力と問題点を踏まえて、「育てたい子ども像」「なりたい自分」を考え、共通の教育目標を創り出します。

次に、目標を具体的な教育活動に落とし込みます。ここでも熟議で得た地域の物的・人的資源の情報が大いに役立ちます。

大事なことは、目標に向かってステップバイステップで活動を構造化することです。一連の学びを連続してサポートしてくれる地域の人材「学びの伴走者」を設定することも有効です。また地域の問題を解決するアイデアを児童生徒に求め、主体的な学びを促進する仕掛けも良いでしょう。

その上で主たる活動を実効あるものとし、教育目標の確実な実現に向かってカリキュラム・マネジメントを推し進めることが重要です。

ここで紹介した地域連携の手法、特に熟議を通じて共通の教育目標を創り出す作業は、学校と地域の関係性を向上させることも知られています。

また、このような協働的学びによって、子どもの地域における社会的アイデンティティが高まるという知見が得られています。子どもたちは「地域社会の一員としての自分」をより肯定的に捉えられるようになるのです。このようにして地域社会とのつながりや役割を主体的・体験的に学んだ子どもたちは、たとえ将来、生まれ育った地域を出て生活するようになったとしても、「故郷で生まれ育った自分」を誇りに思えることでしょう。

(竹西亜古)

参考文献

日渡円・竹西亜古他 (2016) 学校と地域の関係性モデルの開発と検討-コミュニティスクールの社会心理学的分析からスクールコミュニティへの展望 教育実践学論集(17)25-37.

梶原利彦 (2019) 地域とともにある学校づくりに向けて-住民及び教職員の意識改革- 平成30年度兵庫教育大学教育実践高度化専攻実践研究成果物

聲髙光 (2021)「地域の学びの伴走者」を介して地域資源を活かす学習が児童の向集団的態度に及ぼす効果 令和2年度兵庫教育大学教育実践高度化専攻実践研究成果物