「メンタリング」と「コーチング」
広く知られた人材育成の方法に,「メンタリング」と「コーチング」があります。これら2つの方法をめぐっては,その定義や両者の関係性という点で研究者の間で相違があるのですが,たとえば次のように定義されています。メンタリングとは,(相対的に)豊富な経験をもち多くの知識を獲得しているメンターが(相対的に)経験の浅いメンティを指導する関係のこと。一方のコーチングとは,答えなどを見つける力はすべて相手(コーチングを受ける側)にそなわっているとして,相手の力や可能性を引き出し行動するよう促すこととされています。コーチングは,メンタリングと違って,経験や知識の差異を前提にしていません。そのためコーチングを基盤にした教師同士の関係は,教師が学び合う学校の組織づくりに有効だとされる教師の自律性の担保にも貢献すると考えられています。
教師の仕事が暗黙知に支えられ,自らの実践のありようを問い直し続けられる教師になることが不可欠なのだとしたら,重視されるべきはコーチングではないでしょうか。そのとき先輩教師の役割とは,若手教師に代わって判断を下したり,若手教師に答えを与えたりすることではありません。教室内で生起する問題を若手教師が自ら解決していけるよう,対話を通じてサポートしチャレンジを促すことなのです。
参考文献
曽余田順子 (2011). 教職員の人材育成に資するコーチングに関する実践的考察 日本教育経営学会紀要, 53, 113-123.
山中一英 (2014). 新人教員教育における論点と展開の可能性―イングランドの‘Masters in Teaching and Learning’に関する複眼的考察― 日本教師教育学会年報, 23, 114-122.