「むりやり」では何も変わらない
みなさんは水族館でショーを見たことがありますか? わたしはショータイムのアナウンスが聞こえるとプール目指して駆け出すタイプです。イルカさんやアシカさんの可愛い姿、びっくりする芸。活き活きと動き回って、彼ら自身も楽しそうです。おおっと叫んでしまうほど見事な演技にフロアから拍手大喝采。わたしは拍手しながら、うーんと唸ってしまいます。すごいなぁ、ここの飼育員さん。
彼らは、あれほど見事な演技をどうやっておぼえたのでしょう? すべての動物にとって行動をおぼえるメカニズムは同じ、「報酬を伴う行動の出現頻度が上がる」です。しかし、アシカをむりやり逆吊りにして、ご褒美の魚を与えても、ショーでの逆立ちはおぼえません。むりやりやらされた行動は、報酬を伴っても身につかないのです。報酬によってある行動を身につけるには、その行動が「自発されたもの」である必要があります。
アシカは、尾ビレを上下にパタパタさせる行動を自然にとります。これは泳ぐために生まれた時から身につけているものです。飼育員さんはその様子をじっと観察していて、たまたま尾ビレがとても高く上がった時、すかさず魚を与えます。するとアシカは、その高さまで頻繁に尾ビレを挙げるようになります。報酬が得られた行動を繰り返すのです。飼育員さんは、またじっと待ちます。そしてまた、たまたまアシカがさらに高く尾ビレを上げた時、すかさず魚を与えます。もう、おわかりですね。アシカが「自発的に、前より高く尾ビレを上げる」のを、飼育員さんは辛抱強く待つのです。そして、適切な自発行動に対して報酬を与えることで、段階的に理想の演技まで持っていくのです。
ここに飼育員さんのすごさがあります。芸が複雑になればなるほど、そこに至るステップは当然多くなります。もうちょっとこうしてほしい、と思っても言葉は通じません。気の遠くなりそうな時間がかかりそうです。それでも飼育員さんは、辛抱強く・地道に・アシカと心を通わせながら、あくまでも彼らが自発的にする行動を伸ばしていくのです。
見事な芸を教えた飼育員さんのように、教師のあなたも、辛抱強く子どもの自発行動が待てますか?