高砂市小学校教員
八木 寛人さん
INTERVIEW
インタビュー
高砂市小学校教員
八木 寛人
2023年度修了生
「いかに教職員がチームで学びながら、力量を高めていくのか」について学びたいと思い、入学しました。私は兵庫教育大学学校教育学部を卒業した後、13年、教職を経験しました。
このインタビューは2024年9月に行われました。
KSMに入学した動機やきっかけは何ですか。
「いかに教職員がチームで学びながら、力量を高めていくのか」について学びたいと思い、入学しました。私は兵庫教育大学学校教育学部を卒業した後、13年、教職を経験しました。そのなかで特にやりがいを感じていたのが、子どもたちとよりよい授業を一緒に創っていくための授業研究と、同僚とともに高めていく「校内研究」でした。しかしその一方で、校内研究の中心となる研究推進担当の校務分掌を任されても、それに必要な力量が自身に不足していると感じていました。自分なりに試行錯誤を繰り返してはいたものの、授業づくりとは違う難しさを感じていたのです。中堅教員としての力量を高めたいという願望に加えて、教職員集団に貢献したい、でもそうするにはこれまでとは異なる視野に立った知識や自身の変革が必要なのではないかと考えるようになりました。そんな折、「教育方法・生徒指導マネジメントコース(KSM)」の存在を知りました。すぐにオンラインの大学院説明会に参加しました。KSMこそが私の学びたいことが学べる場所であると感じ、入学を決意しました。これは、私の人生において素晴らしい選択であったと今感じています。
KSMで研究したテーマ・内容は何ですか。
「教職員の『対話』を通した学校組織文化の変容」が、私の研究テーマでした。そのなかで焦点をあてたのが、「差異」と「参加」の概念でした。 教職員生活を振り返ったとき、授業や子どもたち、教育について先輩教員や同僚教員と「対話」したことが、教員としての成長に最も有効であったと感じました。このことから対話に注目し、対話とはそもそも何なのか、から問い直しました。そしてたどり着いたのが、教職員間の「差異」や「異質性」に価値を置く必要性でした。実りある対話にとって、互いの差異や異質性が重大な役割を果たしているのではないかということです。ところが、ここには難しさが潜みます。「異質性」が顕在化すると、「対人葛藤」のようなネガティブな感情が同時に生起することがあり、それを乗り越える必要が生じるのです。そこで、教職員が協働的に「参加」できる対話の場をいかに設定するかが重要になってくると考え、その在り方に関する研究に取り組みました。現任校で行った実習では、教職員が互いの認識等の差異について話し合うなかで思考を活性化させ、教育活動や業務がもつ意味そのものを問い直したり、よりよい合意が組織全体で形成されたりする様子を把握することができました。加えて、「対話することそのものに価値を見出す」組織文化へと変容する過程を質的に検討することもできました。互いに学び合う教職員組織づくりに貢献したいと願っていた私にとって、得るものの多い、学校現場に貢献できる研究となったことはたいへん嬉しいことでした。
KSMで学んだことで最も印象に残っていることはなんですか。
教員の学びにとって欠かせない「省察」という概念について、2年間をかけて探究し続けることができたことです。教職員としての自分自身、授業や生徒指導などの教育活動、学校文化を取り巻く状況について捉え直すとともに、研究的な視点でマネジメントする重要性を学びました。その過程では、コースの先生方が一丸となって、院生のためにそれぞれの専門性をいかして親身にご指導くださいました。
私は山中一英教授のゼミに在籍しました。山中ゼミでは、「社会構成主義」や「関係論」という見方・考え方、それを基礎にした組織論を徹底的に学びました。「学習は個人の頭の中で生じるのではない。学ぶのは個人でなく組織である」という捉え直しは、私の視野を大きく広げてくれました。また、院生仲間やコースの先生方と教育や学問について、本当に多くの時間、対話しつつ学びました。しかも、その時間を自ら創出できることも大学院生活の大きな魅力でした。そうした時間は、これまでになく充実した得難い時間でしたし、人生の新たな「起点」を得たと思える時間だったと感じます。2年間の学びを経てもなお、私の周囲は「わからないこと」で溢れています。むしろ、入学前よりわからないことが増えているといってもよいかもしれません。これは一つの驚きです。ただ、だからこそ、研究したいという思いを一層強く感じますし、これこそが研究の醍醐味なのではないかとも思います。これは、KSMで学んだとても大切なことだと思っています。
KSMで学んだことを踏まえて現在実践していることは何ですか。
現在、現任校では「学力向上」の校務分掌を担当し、校内研究や研修の企画の中核を担っています。この夏は、「学級経営のヒヤリハットを対話する事例交流会」という校内研修を企画・実施しました。大学院で取り組んできた研究内容を踏まえ、教職員個々の経験や考え方等の差異をいかした対話を展開して、「学習する教職員」を意識した研修を行いました。参加された先生方にも、たいへん好評でした。自分にとってこの取り組みは新しい試みでしたが、KSMの学びがこの取り組みを、実践内容においても心理面においても、確実に後押ししてくれました。
これからチャレンジしてみたいと思っている学びや実践はありますか。
KSMでの学びをより一層活かし、子どもの学習を支えるファシリテーター・伴走者として、特に対話を中心にした実践を重ねていきたいと思っています。この2学期には、デジタルシティズンシップについて知識構成型ジグゾーを用いて小学5年生の子どもたちとともに対話的に学習していく授業を実践する予定です。また今後は、勤務校の枠にとらわれずに、教職員仲間との「学校を越えた教職員対話」や「教職以外の職種との対話」がもたらす学びとその意味について、考察していきたいと思っています。私の研究のキーワードである「対話」「差異」「異質性」の可能性を、さらに広げる取り組みをしていきたいと考えています。
さらに現在、「兵庫教育大学と大学院同窓会との共同研究」制度(https://www.hyogo-u.ac.jp/facility/alumni-collaboration-center/collaborative_research/info.php)を利用して、「教職大学院を修了した現職教員の継続的な学びに関する研究―現場復帰後の「違和」に着目した対話的な自己エスノグラフィの試み―」をテーマにした共同研究を、山中教授と行っています。KSMの学びを止めることなく、探究し続けたいからです。今後は、実践のフィールドに加えて、学会等に積極的に参加するなどして、学問のフィールドでも活動してみたいと思っています。