兵庫県高等学校教員

安齋 律子さん

INTERVIEW

兵庫県高等学校教員

安齋 律子

2023年度修了生

日本の学校教育の内容がより豊かになるよう、過去と未来を見据え、教科学習とのバランスを取りながら社会との接点を高校現場に取り入れ、ただし生徒と教師の負担が極端に増えないよう、地に足の着いた、学校教育改革の一助となりたいと考えています。

このインタビューは2025年1月に行われました。

KSMに入学した動機やきっかけは何ですか。

教員としての高度な専門知識を持たないまま、これまでの経験や勘だけで教員生活を続けていくことに居心地の悪さを感じていたこと、また自身の実践を効果的に進める方法や、その客観的な効果測定法をできるだけ科学的に学びたかったことが、入学の動機です。高校では、長らく知識の伝達に重きが置かれ、現実社会からの乖離が著しく、何のために学ぶのかを考えたり、自ら学ぶこと自体の楽しさを味わったりすることがないと感じていました。おりしも、そうした教育姿勢や方法を見直す動きが社会からの要請として出始めていました。一方、教育現場では、今でいう「主体的で対話的な深い学び」を始めとする教育改革に乗り出せるのは、予算や人的配置補助のある学校に限られているようにも感じていました。そのような中で、知識・技能の付与と、得た知識を活用する経験、生徒自身が思考したり他者と対話(議論)をする時間の確保、これらのよりよいバランスや、重点を置くべき箇所(スクラップ&ビルド)、評価の方法など、教育方法改革のために山積している課題に対するヒントを大学院で学び、これから広く高校教育でなされるべき教育方法を実践レベルで探りたいと考えました。

KSMで研究したテーマ・内容は何ですか 

高等学校における「総合的な探究の時間」のカリキュラム内容についてです。探究学習は、本来教師が教えるのではなく生徒が自ら学ぶものであり、教師はあくまでも伴走者です。従来の知識伝達型の教育方法と、いわば対極に総合的な探究学習における教育方法を位置づけ、兵庫県下12校・生徒数計2100超を対象に、生徒がどのような総合的な探究学習を経験したかを調査し、その結果を分析しました。

KSMで学んだことで最も印象に残っていることはなんですか。 

   

学習指導要領や各種審議会、答申などの資料があります。これらの資料を追えば、これまでの学校教育の在り方がそれらの審議内容に裏付けされていることがわかり、またこれからの方向性も見えてきます。コースで学ぶまでは、個人の経験から学校と社会との関係を漠然と位置づけているだけでしたが、コースでの学びを通じて政策レベルまで確認でき、非常に面白く感じました。もう一つは、教育(学)の難しさと面白さです。かつて自身が学んだ法学や政治学は、ある意味、劇的な変化を主に扱うものではありません。戦争や内紛などの大きな事変が起きることはありますが、どちらかというと、すでに成熟した大人社会での営みを支えるもの、それを扱い観察する「静的」なものといえるかもしれません。しかし学校教育(学)は、成長期にある人間の大幅な変容を扱うものであり、非常に「動的」なものです。変化や成長の幅は広く、またそれらの要因が限定しにくく、非常に雑然としていて、注意深く(研究の)入り口を見極めないと、3次元レベルで迷宮入りしそうな気がしました(笑)。ただし、そこが教育学の醍醐味だと思います。KSMコースでは、学生たちがそうした迷子になることを想定してか、非常にわかりやすく、各入口への道筋を照らしていただきました。KSMコースの特徴でもある、さまざまな研究方法を学ばせていただける利点は、そのあたりにあると思います。蛇足ですが、教育を科学的に見ること、しかし科学的に見ることができると過信しないことも、コースの中で学びました。今はこれを自身に言い聞かせています。

KSMで学んだことを踏まえて現在実践していることは何ですか。 

2年間の大学院生活では、自身が設定したテーマに関して理論的なレベルでの研究になりました。そこで、2年間で得たデータとその分析から得られた成果を糧に、勤務校で「総合的な探究の時間」の改善実践を行っています。具体的には、勤務校には「総合的な探究の時間」を研究推進する分掌がないので、分掌としては「学年」に入り、担任とその学年の探究学習の授業案づくりを担当しています。担任業務、教科指導、部活指導、その他の課外活動に加え、別途毎週学年全体で行う授業案作成があるので、睡眠時間が減りプレッシャーは増しましたが、やりたかったことの一つなので苦にはなりません。

もう一つ実践していることは、兵庫県とその近隣県の各高校の探究担当者で集まり、令和6年5月から、月に一度の実践報告会・勉強会をオンラインで開催していることです。現在では登録者が20名ほどになり、探究学習推進の実践や悩みを共有して切磋琢磨しています。毎回時間が足りなくなるほど質疑応答が続き(雑談も交えながらですが)思い切って主催してよかったと思います。夏にはオフ会も開催して懇親を深め、今後も長く継続し発展させていく予定です。

これからチャレンジしてみたいと思っている学びや実践はありますか。 

自分の今の軸足は実践⇔効果検証にあるので、質的・量的研究方法についてより一層系統立てて学ぶ必要を感じています。一方で、学校教育の国際比較研究の視点も必要だと感じています。日本の学校教育の内容がより豊かになるよう、過去と未来を見据え、教科学習と探究学習のバランスを取りながら生徒と教師の負担が極端に増えない、地に足の着いた学校教育改革の一助となりたいと考えています。

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