認知的不協和理論
知らず知らずのうちに、まわりの見方を変えて、自分にとって心地よい認識世界をつくる。
フェスティンガーさんの認知的不協和理論は、このような認知整合の働きを明快に説明する理論として超有名です。今回は、この理論の概要をお話しします。
理論では、わたしたちが持つ命題形式の認識を「認知要素」と呼びます。わたしたちの頭は様々な認知要素で一杯です。今そのうちの2つが活性化したとしましょう。その時、その関係には「協和」「不協和」「無関連」の3種があります。「協和」は、2つの認知要素間に矛盾や不都合がない関係で快をもたらします。逆に「不協和」は、矛盾や不都合があり不快をもたらします。「無関連」は文字通り関連がなく快も不快もありません。そして人は「認知要素間が不協和である時、感じる不快を低減するよう動機づけられる」のです。
わたしはお酒を飲むのが大好きですが、飲むたびに「酒を飲む」と「酒はγ-GTP値を上げる(=肝臓を痛める)」という2つの認知要素間の不協和に悩まされることになります。でも、そんな不快な思いを抱えたままお酒を飲んでいる人は、誰もいないでしょう。本当に悩むなら禁酒すればいいのです。それが最も「合理的」です。
しかし、たいていの酒飲みは「酒は百薬の長」「ストレス解消にいい」だとか「肝臓の強さって個人差あるよね(わたしは大丈夫)」などと、飲酒を肯定する(飲酒行動と協和する)認知要素を頭の中でどしどし活性化し、付け加えます。しかも、この不協和の低減プロセスが明確に意識化されることは少ないのです。
リスク心理学の研究では「喫煙者は、喫煙のリスクを非喫煙者より低く見積もる」という事実がよく知られています。人は、非合理的な生き物です。自己の行動を正当化できる認知を、上手に使って生きているのです。
Festinger, L. (1957) A Theory of Cognitive Dissonance. Stanford University Press. Stanford Califolnia.