「続ける」はよろしくない
とある教師が学級経営に関して「子どもをいっぱいほめてあげたい」「ほめて子どもを育てたい」と、わたしに言いました。とても素敵な先生だと思います。教師と子どもの関係は、相互影響的です。ほめられた子どもが嬉しそうな顔を返すと、そのことがほめた教師の「報酬」になり、教師のほめるという行動も出現頻度が上がります。よい循環、よい相互影響が加速します。ほめる続けることは、良い効果がありそうです。
しかし行動理論から見ると、少し様子が異なります。行動心理学者のフェルスターさんとスキナーさんは、小さなレバーと給餌皿のある実験ケージにネズミを入れました。ネズミがレバーを押すと、給餌皿にフードがぽとりと一粒おちてくる仕掛けです。彼らは、ネズミの「レバー押し行動」の出現頻度をいかにして上げるかを実験していたのです。
彼らが工夫したのは、報酬であるフードの出し方でした。そして、レバーを押すたび常にフードが出てくる条件より、押してもフードが出ない回が混ざっている条件の方が、ネズミは繰り返し熱心にレバーを押すことを発見しました。そして、最もレバー押し頻度が上がるフードの出し方は、出るタイミングをランダムにして、何回目に出るかわからないようにした条件でした。
毎回獲得できるもの、対、毎回は獲得できないもの。それを得たとき、どちらの方により「値打ち」を感じるでしょうか? 後者の方が一回の獲得に対する価値が大きい、つまり報酬価が高いのです。そして高い報酬価を再び得たいがために、行動が増えるのです。毎回ほめられるより、時々ほめられた方が、ほめられたことへの報酬価が高いのです。そして、子どもは、その都度ほめられなくても、ほめられるための行動を熱心にするのです。
しかる方も同様です。しかり続けることは、しかられたことの心理的重み(罰価)を減らします。さらに、報酬価あるいは罰価が弱まるほど、それを与える刺激に対して馴化(なれ)が進むことが分かっています。しかり続けると、子どもはしかっている先生に馴れてしまって、ほとんど何も感じなくなります。
文献
Ferster, C. B., & Skinner, B. F. (1957). Schedules of Reinforcement. New York, NY: Appleton-Century-Crofts.