自分の学びを最適化する

 適性処遇交互作用(ATI:aptitude treatment interaction)という言葉を聞いたことがあるでしょうか。例えば、算数の授業をゆっくり丁寧に進めたら、苦手な子どもは授業に参加できたが、得意な子どもが退屈してしまったということがあります。適性処遇交互作用とは、学習者の学力や性格特性、学習スタイルなどの「適性」の違いにより、教授・学習形態や方法、内容、教材などの「処遇」の効果が異なることを指します。

 答申でも、次のことが求められています。

・子どもの特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うこと(p.17)

・教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供すること(p.17)

 これらの記述では、適性処遇交互作用の考え方がベースの一つになっていると考えられます。

 ただ、これまで適性処遇交互作用が引き合いに出される場面では、主として教師による処遇の方だけに焦点化される傾向がありました。つまり、「この子の特性はこうだから、この処遇を」という考え方であり、子どもが自分に合う処遇を選ぶという発想はあまりなかったといえます。

 個別最適な学びでは、子どもが自分の特性に合う処遇を選ぶことも大切にされます。答申の次の部分がそれにあたります。

・教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで,子供自身が学習が最適となるよう調整する「学習の個性化」も必要である(p.17)

 「学習の個性化」の点から見ると、習熟度別指導は、入るクラスを子どもが選ぶ場合もあるため、子どもに選択権があるように見えます。しかし、一旦どれかのクラスに入ってしまえば、そのクラスの中では、同じ教材・学習進度・指導方法で進んでいくのが一般的です。つまり、従来の習熟度別指導では、子どもの選択可能な範囲がかなり限定的であったといえます。子どもが自分の学習を最適化できるようにするには、子どもに任せる範囲をより拡大する必要があります。

 とはいえ、いきなり「さあ、今日から好きなように勉強しなさい」と言われても、子どもの方の準備が整っていなければ動くことはできません。選択肢が多すぎると、人はかえって選べなくなるといいます。そこで、例えば、まずは授業の中の5分間だけ子ども任せる時間にして、課題の種類を選べるとか、課題に取り組む順序を選べるなど、選べる範囲もむしろ狭めておきます。そして、子どもが選べるようになったら、教材や、かける時間の長さなど、徐々に選べる範囲を広げていきます。このようにして、子どもの方にも自分にあうものを選ぶ力を育成しながら、学びの主導権を子どもに渡していってはいかがでしょうか。

(宮田佳緒里)

参考文献:

森敏昭・秋田喜代美(編) 『教育心理学キーワード』有斐閣,2006.

奈須正裕『個別最適な学びの足場を組む。』教育開発研究所,2022.