まわりの見方を心地よく整える
みなさんは「知らず知らずのうちに親しい人と同じものを好きになっている自分」に気づいたことはありませんか?
最初はどうってことなかったのに、ふと気づくと友人の推しているモノをいいなと感じていたり、共通の趣味になってしまったり・・・という経験です。友人からの影響でコレを始めて、いまではすっかりハマってます。という人もいるのでは?
この「知らず知らずのうちに好きになる」という心のプロセスを、ハイダーさんは「バランス理論」で説明しました。上の図を見てください。P=わたし、O=他者、X=モノ、です。バランス理論ではこの3つの関係を「+(プラス)」か「-(マイナス)」で捉えます。そして三角形の各辺の「+」「-」を掛け算し、その結果が正負のいずれかで、関係全体を捉えます。たとえば左の三角は「+*-*+」で掛け算の結果が「-」となる「負の関係」です。これは「わたしの好きな人が、わたしの嫌いなものと結びついている」状態です。当然このような状態は、わたしにとって不都合で不快です。
ハイダーさんは、このような負の関係がもたらす不快に人は長く耐えられないと考えました。どこかの辺の符号を変えて、掛け算の結果が「+」になる「正の関係」にしたいという無意識の動機が高まるとしたのです。ひとつの方法は、XとOの間の辺を「+」から「-」に変えることです。しかしこれは、好きな人に、その人が好きなモノを嫌いになれと言うことなので、なかなかツライです。そんなことをしたら、好きな人に嫌われる危険性がありますし、いちいち働きかけるのも大変です。そう、この辺は、わたしが直接、手を下しにくい辺なのです。
一方、PとXの間の辺は、わたしの心のもっていきようで変えられます。好きな人が好きなモノを、わたしも好きになればいいのです。そうすると3辺の掛け算結果は「+」になり「正の関係」が得られます。逆に、そのモノがどうしても好きになれない場合は、そんなモノに関わっている人を嫌いになればいいのです。この場合も3辺の掛け算結果は「+」になりますよね? これでわたしが認識する関係性は、わたしにとって心地よい安定したものになるのです。
知らず知らずのうちに、まわりの見方を変えて、自分にとって心地よい認識世界をつくる。このような心の働きを「認知整合」と呼びます。人の心の本質的な働きです。
Hider, F.(1958) The Psychology of Interpersonal Relations. Wily, New York.