教師発達とメンタリング
この授業は、「教師の学び」や「教師の成長」について理解を深める授業です。本コースの宮田と、小学校教員養成特別コースの別惣先生の二人で担当しています。
皆さんは、教師がどのように成長していくのか、ということを考えたことはあるでしょうか。とにかく経験を積めば、成長できると考えますか。いやいや、それだけではないですね。ほかの先生の実践を見たり、本を読んだり、大学院で学ぶことも大事です。それでは、経験のようなアウトプットと、その他の3つのようなインプットを繰り返せば、教師は成長できるでしょうか。
教師教育の分野では、かつては、教師は大学で理論や方法論を学び、それを学校で実践するものだ、という考え方が主流でした。そして、教員養成大学の学部や大学院の教師教育も、かつてはこの技術的合理性パラダイムに基づいて行われてきました。しかし、教師の発達や教師の社会化の研究が進むにつれて、このような伝統的な技術的合理性パラダイムがあまりうまく機能しないことがわかってきました。また、日本の研究でも、熟練教師は必ずしも、理論を実践に応用するというような考え方をしていないということが示されてきました。
そこで提案されたのが、「反省的実践家」としての教師像です。これは、教師というのは「経験の反省を基礎として、子どもの価値ある経験の創出に向かう存在」である、という考え方です。つまり、技術的合理性パラダイムでは、まず理論があってそれを教師が学ぶ、というように、学びのスタート地点は理論でした。一方、反省的実践家としての教師は、自分自身の教育実践経験をスタートにして、そこから学びが始まります。そして、その経験を省察することが、学びのカギだというのです。
特に現在の教職大学院の教師教育は、この反省的実践家としての教師像を前提に行われることが多いです。そのため、自分は教職大学院に理論や方法論を勉強しに来たと考えておられる学生さんの中には、大学院のカリキュラムに面喰う方もおられるようです。そういう方にとっては、この反省的実践家としての教師像とはどういうものか、であるとかこの考え方が提案されるようになった歴史的経緯を知ることで、教職大学院での学びに対して見通しを持てるようになると思います。
また、省察が大事だということはわかったけれど、そもそも省察って何をどう考えればいいの?と疑問を持つ方もおられるでしょう。
この授業の前半では、反省的実践家としての教師像や、省察にかかわる理論を学ぶことで、教師の学びについて理解を深めていきます。
ところで、教師は自分の実践経験の省察を通して学ぶこともありますが、それだけではなくて、先輩教師の背中を見たり、直接指導を受けることで学ぶ機会もあります。つまり、若い教師が、先輩教師との関わりから学ぶという学びの方向性もあるわけです。
ただ、ここで問題になってくるのが、例えば、若い先生が「なんでも先輩にきいちゃっていいの?」と不安に思ったり、先輩教師のほうが「教えるのはいいけど、自分の経験則の押し付けになっていないかな?」というような疑問を持ったりします。
こうした疑問に対して、役に立ちそうなのが、メンタリングの考え方です。
メンタリングとは、先輩や上司であるメンターと、経験の浅いメンティとの間に結ばれる、発達支援関係を言います。経験を積んだ専門家が、若い専門家の自立を見守り、援助するのです。メンタリングは、発達支援関係なのですが、そこで大事にされるのが、メンティの自立です。そのため、メンタリングの考え方は、若い教師の自立を目指した関わり方を考えるヒントになりうるといえます。そこで、後半の授業ではこのメンタリングの考え方を学んでいきます。
この授業は、現職の院生さんと学部卒の院生さんが一緒に受けるのですが、その目標は、現職の院生さんと、学部卒の院生さんで分けています。
現職の院生さんの方は、どうすれば自分自身が教師として成長できるか、そして、先輩として後輩教師にどのように指導助言すればいいかについて、自分なりの考えを持てるようになることが目標になります。
学部卒の院生さんの方は、自分が教師になった時にどうなるのかということに対して見通しを持ち、先輩とどのような関係を築けばよいのかについて、自分なりの考えを持てるようになることが目指されます。
授業は、前半の7回で、反省的実践家としての教師にかかわる理論を学びます。後半の7回で、先輩-後輩関係にかかわる理論を学びます。
この授業は、本コースの教育方法分野の科目の一つにあたります。教育方法分野では、関連する4つの科目を連動させて、カリキュラム・マネジメントを行っています。この「教師発達とメンタリング」の授業は、他の3つの科目での学びの基礎となる理論を提供する位置づけとなっています。
教師の学びや、教師の成長について理解することは、皆さん自身が教師として成長するうえできっと役に立つと思います。興味を持たれた方は、ぜひ、私たちと一緒に大学院で学びませんか。