教育相談の理論と技能開発
「教育相談の理論と技能開発」について紹介します。「集団」へのアプローチをすることが多い教員ではありますが、他方、「個」へのアプローチを高めるための技能を向上させることも望まれます。「教育相談」を体験的に学ぶことによって、児童生徒へのかかわり、保護者への対応などさまざまな場面に応用できる力量形成が期待されます。「教育相談」を学ぶことは、対人援助色職である教員の学びとして重要な課題であるといえます。
教育相談について学ぶにあたっては、カウンセリングについての理解が必要です。カウンセリングに必要な態度はひとつではありません。そのうちのひとつは、「観察」する姿勢です。誰にでも同じようにあてはめたり、説明できるような、科学的なものの見方を背景にした人間へのかかわりの方法を学ぶことがそれにあたります。でも、対人援助はそれだけではできません。もうひとつの、誰にでもあてはめることはできないようなことだけれども、相談者が感じ取っている実感を理解し、支援するようなありかたも必要です。事実に即していなくても相談者が感じ取っている感覚を理解しようとするような姿勢が、相談を求めている人たちが孤立せず、課題に取り組んでいく勇気を与えます。
例えば精神分析の理論には、人の心の構造が、自分らしくありたいと願うイド(自分の感覚)、社会適応を求める超自我、両者を調整する自我から成り立っているという捉え方があります。もし、イド(自分らしさ)だけに焦点づけた生き方を求めれば、人はわがままになってしまうかもしれません。一方で超自我(社会適応)ばかりでは、自分を大事にできず、きゅうくつになってしまうかもしれません。広く求められる自分のありようと、自分独自のありようの部分をバランスよく育てていくことが大事です。
授業では、行動療法の理論も学びます。行動療法は、科学的なデータに基づいた人間への支援のありかたがテーマになります。例えば、SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)という方法には、適応的な学びを学ぶ過程が示されているので、この方法を使って社会適応を学ぶ際にはとても有効です。社会適応を学ぶ必要がある支援をもとめられている場合であれば、行動療法の技法を学んでおくことが役に立つでしょう。
もうひとつは、人間性心理学のアプローチ(特にロジャーズの理論)を学びます。行動療法が誰にでも応用可能な方法をめざすのに対して、人間性心理学のアプローチでは、受容・共感的な態度を大事にして相談に来た個々がもっているこころのありようへの理解をめざします。相談者を個別の存在であるととらえて、それぞれの気持ちに添ったカウンセリングのありようについて理解を深めていきます。
これらのカウンセリング理論を学んだうえでそれらを統合して、カウンセリングがどのように進められていくかといった具体的なカウンセリングの進行についても学びます。カウンセリングや教育相談がどのように進行していくかといったモデルを知ることによって、ご自身の教育相談への理解が進むだけでなく、スクールカウンセラーの活動についての理解にも役立つかもしれません。
それから、カウンセリングの技法を学ぶために、マイクロカウンセリングを学びます。面接構造(基本的傾聴や共感的理解)やかかわり技法についてその理論を知り、カウンセリングで行われる技法を体験的に学びます。具体的には、傾聴するための技法について、うなづきや質問技法(開かれた質問と閉ざされた質問)、はげまし、言いかえ、感情の反映、要約を伝えることなど、さまざまなカウンセリングで行われている技法や関係を実際にロールプレイで体験しながら学びます。
最後に、これまでの学びをもとに、自分自身でカウンセラーの体験をします。誰かの相談を聴く練習をして、その内容を録音してやりとりを記述する逐語録を作成し、その内容を検討します。批判されるような時間ではなくて、聴き役を体験してどのような気づきがあるか、他にはどのような聴き方の可能性を見つけられるかなどの観点をもってカウンセラー体験を見直します。
このような授業の内容をもとに教育相談の「理論」と「技能」を受講者が開発していくことをめざす授業です。授業を通じて、カウンセリングの技法を学びつつ、教育相談への応用についても考えていくことをめざしたいと思います。